ソフト会社って何なん?(第6話)その設備、本当に必要?
「将来のため」という言葉を、そのまま受け入れていませんか。
第5話では、中小企業が設備投資を行うときの「スモールスタート」という考え方についてお話ししました。
今回から数回に分けて、見積書に書かれている「ハードウェア」「ソフトウェア開発」「保守・サポート」
について、38年間システム開発の現場で見てきた経験をもとにお話ししたいと思います。
今回は、その中でもサーバーをはじめとしたハードウェアについてです。
見積書を見ると、
- 高性能CPU
- 大容量メモリ
- RAID構成
- サーバー二重化
- バックアップサーバー
など、多くの専門用語が並んでいます。
そして、その理由としてよく説明されるのが、
「将来を見据えた構成です。」
という言葉です。
もちろん、将来を考えて設備を選ぶことは決して間違いではありません。
私もシステムエンジニアとして、「少し先を見据えた提案をすること」は、とても大切な仕事だと思っています。
しかし、38年間の現場で数多くのシステム導入に携わる中で、一つ気付いたことがあります。
それは、この「将来」という言葉が、経営者と情報システム担当者では、まったく違う意味で使われていると
いうことです。
そして、その認識の違いこそが、後になって「思っていたシステムと違う」「予想以上に費用がかかった」
というズレを生む原因になることも少なくありません。
情報システムが考える「将来」と、経営者が考える「将来」は違う
情報システム担当者やソフト会社が考える「将来」とは、
- 利用者が増える。
- データ量が増える。
- 新しい機能が追加される。
- サーバーの性能不足が起きないようにする。
- システム障害に備える。
このように、情報システムを中心に考えた将来です。
これは技術者として、ごく自然な考え方です。
責任あるシステムを作ろうと思えば思うほど、「将来困らない構成」を考えるのは当然のことです。
一方で、経営者が考えている将来は少し違います。
三年後、新工場を建設するのか。
新しい事業へ進出するのか。
社員を増やすのか、それとも現状を維持するのか。
設備投資を積極的に行う時期なのか、それとも財務体質を優先する時期なのか。
つまり、経営者が考えているのは会社全体の未来です。
ここに、大きな違いがあります。
情報システム担当者は会社の将来を考えていないわけではありません。
しかし、その視点はどうしても「情報システム」という範囲の中になります。
一方、経営者は売上、人材、資金繰り、設備投資、取引先、市場環境など、会社全体を見ながら
経営判断をしています。
見ている景色が違うのです。
だから私は、経営者の方にぜひ一つだけ確認していただきたいことがあります。
「その将来とは、会社のどのような経営計画を前提にした将来なのですか。」
この一言を尋ねるだけで、提案の意味は大きく変わります。
もし三年後に新工場を建設する計画があるなら、その設備は必要かもしれません。
新事業へ進出する予定なら、余裕を持った構成が正しい判断になることもあります。
しかし、現状維持を前提としているのであれば、本当にそこまで大きな設備が必要なのか、
もう一度考える余地があるかもしれません。
「将来」という言葉だけでは、本当に必要な設備投資かどうかは判断できません。
その将来が、会社の経営方針に基づいた将来なのか。
そこまで確認して初めて、設備投資の判断ができるのです。
システム投資は経営方針から始まる
システム化の計画が始まると、情報システム担当者やソフト会社は、システム構成やハードウェアについて
技術的な検討を進めます。
そして最終的に、
「この構成が最適です。」
という提案が経営者へ提出されます。
その頃には、設計も見積書もかなり固まり、大きな方向転換は簡単ではありません。
しかし、私は38年間の現場で、ここに一つの大きな問題を何度も見てきました。
それは、
会社の経営方針が十分に共有されないまま、システム化の検討が始まってしまうことです。
「将来を考えてください。」
「拡張性を持たせてください。」
こうした要望だけでは、会社が本当に目指している姿は見えてきません。
会社はこれからどこへ向かうのか。
どの事業に力を入れるのか。
設備投資を積極的に行う時期なのか。
それとも財務体質を優先する時期なのか。
こうした経営方針があって初めて、情報システムの役割も決まります。
つまり、
設備投資は設備から決まるものではありません。
会社の経営方針から決まるものなのです。
私自身も同じ失敗をしました
実は、私自身も情報システム部門の責任者として、この問題に直面したことがあります。
ある中堅企業で、サーバー更新プロジェクトを担当したときのことです。
私は、システム構成の検討を部下へ任せました。
その部下は、ITメーカーで長年サーバーやネットワークを担当してきた経験があり、社内でも技術に詳しい
エンジニアとして、また部下からも信頼されていました。
しばらくして提出された提案書を見ると、さすがに技術的には申し分のない内容でした。
性能にも余裕があり、障害対策も十分に考えられています。
「将来を見据えた構成」としては、とてもよくまとまった提案でした。
私も技術者という立場でその提案を見れば、何の迷いもなく承認していたと思います。
実際に私は、その提案を承認し、購入契約の手続きを進めていました。
ところが数日後、工場内を視察していたとき、一つの光景が目に飛び込んできました。
生産ラインが止まり、多くの作業員が手を止めて待機していたのです。
近くにいた担当者へ理由を尋ねると、返ってきた言葉は意外なものでした。
「こんなことは、しょっちゅうですよ。」
私は、その何気ない一言に考えさせられました。
本当に会社を止めていたモノ
工場で実際に生産が止まる原因を調べてみると、その多くはサーバーではありませんでした。
生産設備の故障。
機械のトラブル。
部品不足。
材料の納期遅れ。
こうした現場の問題によって、生産ラインが止まることの方が、はるかに多かったのです。
一方で、サーバーが故障して工場全体が止まったという事例は、ほとんどありませんでした。
もちろん、サーバーは重要です。
しかし、だからといって「最優先で投資すべきもの」かどうかは別の話です。
会社全体を見れば、もっと優先順位の高い投資があったのです。
そのとき私は、初めて気付きました。
情報システムだけを見ていては、本当に必要な投資は見えてこない。
会社全体を見て初めて、本当の優先順位が見えてくるのだということを。
今振り返れば、その数百万円を生産ラインの障害対策へ投資していた方が、会社にとっては、
はるかに価値のある投資だったと思います。
そのとき初めて、私は技術者としてではなく、一人の経営者の視点で情報システムを考えなければ
ならないことを学びました。
「情報システムにとって最適」と「会社にとって最適」は違う
ここで誤解していただきたくないことがあります。
私は、情報システム担当者やソフト会社の提案が間違っていると言いたいわけではありません。
技術者は、自分たちに与えられた条件の中で、できる限り良いシステムを作ろうとします。
それが仕事だからです。
だから提案書の内容は、情報システムという視点で見れば、どれも正しい提案だったと思います。
しかし、その「正しさ」が、そのまま会社全体の「正しさ」になるとは限りません。
情報システムにとって最適な投資。
会社にとって最適な投資。
この二つは、必ずしも一致しないのです。
会社全体には、情報システム以外にも多くの投資があります。
生産設備への投資。
人材育成への投資。
営業活動への投資。
品質改善への投資。
限られた予算の中で、何を優先するか。
それは情報システム部門だけでは決められません。
会社全体を見渡して判断できる経営者だからこそ、決められることなのです。
システムは会社の目的ではない
情報システムは、とても重要な存在です。
しかし、会社は情報システムを導入するために存在しているわけではありません。
会社の目的は、お客様へ価値を提供し、利益を生み出し、社員を守り、会社を成長させることです。
情報システムは、その目的を実現するための手段です。
ところが現場では、ときどき手段と目的が入れ替わってしまうことがあります。
性能の高い設備を導入すること。
最新のシステムを採用すること。
将来困らない構成にすること。
どれも大切です。
しかし、それが会社の経営方針と一致していなければ、本当に必要な投資とは言えません。
設備を導入することが目的ではありません。
会社の未来を実現することが目的なのです。
経営の二つの車輪
私は38年間、多くの会社の情報システムづくりに携わってきました。
その中で強く感じてきたことがあります。
会社は、本業だけでは前へ進めません。
情報システムだけでも前へ進めません。
本業と情報システム。
この二つは、会社を動かす二つの車輪なのです。
どちらか一方が欠けても会社は前へ進めません。
しかし、もう一つ大切なことがあります。
二つの車輪は、同じ方向を向いて回っていなければならないということです。
会社の成長に対して情報システムだけが先へ進み過ぎれば、必要以上の設備投資や複雑なシステムが生まれます。
反対に、会社が成長しているのに情報システムが追い付かなければ、業務は現場の負担となり、やがて会社の
成長を妨げる存在になってしまいます。
本来、この二つの車輪は、同じ方向を向き、同じ速度で回るべきものです。
そのためには、
会社はこれからどこへ向かうのか。
その経営方針を最初に示すことが何より重要になります。
その方針があって初めて、情報システムも会社と同じ方向へ進むことができるのです。
ズレは、少しずつ大きくなる
私は38年間の現場で、この二つの車輪の向きが少しずつズレていく会社を数多く見てきました。
最初は、ほんの小さなズレです。
「将来のためです。」
「念のためです。」
「あとから増設するより安く済みます。」
そんな一つひとつの判断が積み重なり、気が付けば会社が目指していた方向と、情報システムが向かっている
方向が違っていた。
そんな場面を何度も経験しました。
すると現場では、
「このシステムは使いにくい。」
という声が聞こえるようになります。
一方、情報システム担当者は、
「現場が理解してくれない。」
と感じます。
どちらも会社を良くしたいという思いで仕事をしています。
それなのに、お互いの距離が少しずつ広がってしまうのです。
私は、その原因の多くは技術ではないと思っています。
最初に、会社の経営方針と情報システムの方向性を十分に共有していなかったこと。
そこに、本当の原因があるのではないでしょうか。
同じ方向を向いていますか?
情報システムは、会社の経営方針を実現するための手段です。
だから設備投資は、設備から考えるものではありません。
会社の未来をどう描くのか。
その経営方針から考えるものです。
見積書を見るときには、
「この設備は必要か。」
だけではなく、
「この投資は、会社が目指す未来と同じ方向を向いているだろうか。」
そう考えてみてください。
きっと見積書の見え方が変わるはずです。
次回予告
今回は、情報システム設備への投資は「設備」ではなく「経営方針」から考えるべきだというお話をしました。
ちょっと肩ぐるしい記事が続きましたので、次回(第7話)は少し気分と視点を変えて、見積書には書かれて
いても、経営者には分かりにくい項目についてお話ししたいと思います。
「この金額で、実際には何をしているのか。」
「なぜ、この費用が必要になるのか。」
「実際に現場ではどのような作業が行われているのか」
を、38年間の経験をもとに「裏話」も交えながらご紹介します。
そして、その次からはいよいよ、システム開発そのものについてお話ししていきます。
ソフトウェア開発は、見積書の中でも最も金額が大きく、そして最も分かりにくい部分です。
※本記事は、筆者が38年間システム開発の現場で経験した内容や考え方をもとに執筆しています。
すべての企業や案件に当てはまるものではなく、一つの考え方として参考にしていただければ幸いです。