ソフト会社って何なん?(第8話)バックアップとは?
バックアップがあれば安心でしょうか?
前回は、ハードウェアをどのように導入するかについてお話ししました。
今回は、その導入とセットで必ず提案される「バックアップ」についてです。
システムの見積書を見ると、
「バックアップ装置」
「バックアップシステム」
「世代管理」
など、多くの専門用語が並んでいます。
そして、その説明を聞くと、
「これだけあれば安心です。」
と言われることも少なくありません。
しかし、私は38年間システム開発の現場で仕事をしてきて、一つ強く感じていることがあります。
バックアップとは、高価な装置を導入することではありません。
会社にとって本当に必要なデータを、確実に残しておくこと。
それがバックアップの本質です。
ではその「本質」を解いてみましょう。
バックアップの目的は?
バックアップの目的とは何でしょうか。
色んな考え方はありますが、共通しているのは、
トラブルによって業務継続に必要なデータが失われても、できるだけ直近の状態まで復旧できるように
データを退避しておくこと。
今回の見積にある、「システムのバックアップ」と言えば、業務を遂行する一つの道具である
コンピュータシステムを短時間で再稼働させるために必要なデータの「退避行為」と考えます。
ですからバックアップ装置は単にその退避に使用される機器であり、
求められる性能は「確実に退避可能である。」
ということに尽きます。
USBでも、
NASでも、
クラウドでも、
高価なバックアップ装置でも、
目的は同じです。
会社に必要なデータを安全に退避し、
必要なときに復元できること。
その目的さえ達成できれば、形式や形態は構わないと思います。
何をバックアップするのですか?
ここで一つ、経営者の方へお伝えしたいことがあります。
バックアップ装置を選ぶ時に必ず比較対象にあがる性能「容量」があります。
数年前はギガバイトからテラバイトに進み、いまでは「ペタバイト」という単位に
膨れ上がっています。
これはどれくらいの情報量かといっても簡単には想像できない量になりました。
ちなみに1ペタバイトのバックアップ装置にいくらデータが保存可能か単純に計算した結果が以下の通りです。
- 写真入りのExcel請求書を1ファイル1MBと仮定した場合、約10億ファイル。
- 新聞1ページのPDFを1ファイル10MBと仮定した場合、約1億ページです。
容量という点では、現在の技術は中小企業にとって十分すぎるほど進歩しています。
それはさておき、もっと大切なことがあります。
それは、
「何をバックアップするのか。」
を決めることです。
私は38年間、多くの会社のバックアップ環境を見てきました。
その中で感じたことがあります。
高価なバックアップ装置を導入している会社ほど、
実は不要なデータまで何年も保存し続けていることが少なくありません。
途中まで作った資料。
個人が一時的に作成したファイル。
退職した社員のデータ。
誰も使わない古い資料。
「念のため。」
という理由だけで保存され続けています。
消せないバックアップ
こうした状態になる原因は、バックアップ装置ではありません。
会社としてのルールが決まっていないことです。
会社として必ず残すデータ。
個人が仕事のために保存しているデータ。
この区別が曖昧なままバックアップを続けると、必要なデータと不要なデータが混在し、
容量だけが増え続けます。
多くの企業のバックアップ環境を見てきましたが、「消せないバックアップ」は
決して珍しいものではありませんでした。
いざ整理しようとしても、
「全部必要です。」
「消してもいいのか分かりません。」
という答えが返ってきます。
そして、誰も判断できないまま、バックアップだけが増え続けていくのです。
しかし、本当に会社として必要なデータは、それほど多くないはずです。
会社が業務を再開するために必要なデータと、個人が仕事を進めるためのデータは、
分けて考えるべきではないでしょうか。
個人の作業中のファイルや資料は、本人が責任を持って管理する。
一方、会社として守るべきデータは、会社のルールに従って確実にバックアップする。
この役割分担を明確にすることが重要です。
ルールが決まらないままバックアップを続けると、「消せないバックアップ」は今後も増え続けます。
その結果、本来は必要のないデータを保存するために、より大きなバックアップ装置や保存領域が
必要になり、会社はそのための費用を払い続けることになります。
バックアップ容量が足りないのではありません。
何を残し、何を残さないのかというルールが決まっていないことが、本当の問題なのです。
本当に必要なバックアップ
中小企業の基幹システムを早期に復旧するうえで、まず重要になるのは、前営業日終了時点のデータです。
もちろん、できる限り鮮度の高いデータをバックアップできることが理想です。
しかし、それを実現しようとすると、高性能なバックアップ装置や大規模なシステム構成が必要になり、
設備投資も大きくなります。
中小企業にとっては、本来必要とする以上の性能を求めることになりかねません。
システムに障害が発生したとき、会社として最優先すべきことは、できるだけ早く業務を再開することです。
そのためには、前営業日の業務終了時点まで確実に復旧できることが重要になります。
もちろん、過去のデータを保存しておくことにも意味はあります。
しかし、通常業務を再開するという目的で考えれば、何週間も前のデータへ戻すことは現実的ではありません。
受注や出荷、売上など、その間の業務データが失われてしまえば、かえって現場は大きく混乱してしまいます。
だから私は、バックアップ装置の性能よりも、
確実に前営業日のデータが取得できていること。
そして、
そのバックアップが正常に取得できていることを、人が確認すること。
こちらの方が、はるかに重要だと考えています。
自動だから安心ではありません。
「昨日のバックアップは正常に完了している。」
それを日々確認する運用こそが、会社を守るのです。
バックアップは装置ではなくルール
バックアップを考えるとき、
最初に決めるべきことは、
どの装置を買うかではありません。
会社として、
何を残すのか。
何を残さないのか。
誰が確認するのか。
個人が管理するものと、
会社が管理するものをどう分けるのか。
このルールが決まって初めて、
必要な容量も、
必要な装置も、
必要な運用も決まります。
そしておのずと最適なバックアップ装置が見つかります。
私は38年間の現場で、
高価なバックアップ装置よりも、
しっかりしたバックアップルールを持つ会社の方が、
障害から早く復旧している場面を数多く見てきました。
最後に
バックアップとは、
高価な装置を導入することではありません。
会社が業務を再開するために必要なデータを、
確実に守る仕組みを作ることです。
見積書を見るときには、
バックアップ装置の性能や容量だけを見るのではなく、
「会社として、何をバックアップするのか。」
そのルールが決まっているかを、ぜひ確認してみてください。
バックアップは、容量で選ぶものではありません。
会社のルールに合わせて選ぶものです。
そして、そのルールに合わせて設備を選べば、それで十分なのです。
次回予告
次回9話は、多くの見積書に書かれている
「保守料」
についてお話しします。
保守契約を結んでいれば、本当に安心なのでしょうか。
保守とは、どんなときに、どんな対応をしてくれるのか。
そして、中小企業にとって本当に必要な契約なのか。
中小企業にとって最適な考え方を、38年間の現場経験をもとにお話ししたいと思います。
※本記事は、筆者が38年間システム開発の現場で経験した内容や考え方をもとに執筆しています。
すべての企業や案件に当てはまるものではなく、一つの考え方として参考にしていただければ幸いです。